外伝 セイ・シラナミ編
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──これは「喧嘩神輿とうなめんと」を間近に控えた、とある日の出来事。 | ||
カタバよりとある神の封印を命じられ、その任を終えて帰還したセイ。 | ||
しかし、その顔には苦痛と困惑が滲み出ていた。 | ||
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![]() | こんなことを繰り返して、我々は一体どこへ行こうというのだ……。 | |
![]() | カタバの奴め、一体何を考えている……? | |
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戻ったか、セイ。ちょうどいい、お前に話がある。 | ![]() | |
![]() | ……長くなるようなら、遠慮してくれないか。 | |
この問答がまず無駄なやりとりだな。黙って聞け、セイ。 | ![]() | |
対峙する両者の間に緊張した空気が漂う中、カタバは口を開く。 | ||
近日「喧嘩神輿とうなめんと」が開催される。私もそれに出ようと思っていてな。 | ![]() | |
![]() | ……祭りなどに興味を持たぬお前が、なぜ? | |
なに、少しばかり叶えたい願いが出来ただけだ。セイ、お前も私と出てもらうぞ。 | ![]() | |
カタバの言葉に、セイは眉間にシワを寄せた。 | ||
![]() | ……その願いとはなんだ? | |
戦神が望むべきことといえば決まっているだろう。 | ![]() | |
![]() | 戦神が望むこと……? | |
オウム返しに訊くセイに、カタバは苛立たしげに舌打ちをした。 | ||
我々戦神がなんのために生きているか、知らぬわけでもあるまい。 | ![]() | |
……腑抜けたか、セイ。少し時間をやる、それまでに心づもりを決めろ。 | ![]() | |
カタバの後姿を見届け、セイもまたおもむろにその場を後にする。 | ||
![]() | ……戦神の望み、か。 | |
彼の心の内では、その言葉がぐるぐると渦巻いていた。 | ||
![]() | (俺たち戦神が望むもの……?) | |
答えの出ない問いを頭の中で繰り返しながら、セイは揺らめき続ける水面を見つめていた。 | ||
![]() | …………。 | |
![]() | 馬鹿馬鹿しい……。 | |
一体、この問いに何の意味があるというのだ。そうセイは思い、大きなため息をつく。 | ||
自分は望みを叶える側の人間だ。何かを望んだとて、人の為にならなければ意味は無い。 | ||
その前提がある以上、戦神である自分が身勝手な望みを抱くことは出来ないはずだ。 | ||
と、セイが結論に達した時。 | ||
![]() | ぐっ! | |
無遠慮に背中を叩かれ、セイは敵意むき出しに振り返る。 | ||
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よお、陰気くさい顔してどうしたってんだよ、セイ! | ![]() | |
![]() | 会って早々に失礼なやつだな。お前には全く関係……。 | |
ない、と言い切る前にセイは言葉を止めた。 | ||
![]() | (……ここで会ったのも何かの縁だ。戦神の望みとらや、コイツに試しに聞いてみるか) | |
ん? どうした、急に黙って。 | ![]() | |
![]() | スオウ……願いがひとつ叶うとしたら、お前は何を……一体何を願う? | |
![]() | 俺と同じ戦神であるお前が叶えたい願いは……どんなものなのか……。 | |
![]() | ……俺に、教えてくれないか。 | |
胸の内から心を絞り出すように、セイはスオウに聞く。 | ||
一体、どんな願いが返ってくるのか……だが身構えるセイに、スオウはあっけらかんと答えた。 | ||
そんなもん、決まってんだろ? | ![]() | |
俺の望みは……「戦をなくすこと」だ! | ![]() | |
![]() | な……!? | |
堂々と言い放つスオウに、セイは言葉を失う。 | ||
戦なんてないほうがいいに決まってる。それが下界のためってもんだろ? | ![]() | |
……まぁ、中にはカタバみたいな戦狂いな戦神もいるけどよ。 | ![]() | |
俺たちは下界の人間たちあっての神様だ。そうだろ、セイ。 | ![]() | |
笑いながらそう言うスオウの言葉は、今しがたセイがたどり着いた答えそのものだった。 | ||
![]() | ……お前、それにいつ気付いた? | |
はぁ? いつもなにも、俺らはそういうもんだろうがよ。何言ってんだお前。 | ![]() | |
![]() | ……ははっ! | |
い、いきなり笑っておかしな奴だな、どうしたんだよ。 | ![]() | |
![]() | いや……スオウ、お前のおかげで腑に落ちた。礼を言うぞ。 | |
お、おう……なんだかよくわかんねーけど、そりゃよかったな? | ![]() | |
互いに笑い合う二人。 | ||
だが、その時。 | ||
強い恨みの念が形を成し、彼らに向かって突進してきた……! | ||
(戦闘終了後) | ||
恨みの念を払った後、セイとスオウは視線を交わす。 | ||
今のは、もしかしなくても……。 | ![]() | |
![]() | ああ、下界の戦で生まれた不浄の念だろう。 | |
剣を一度払い、セイは苦々しげに恨みの念が飛んできた方向を見る。 | ||
![]() | …………! | |
その時、彼は気づいた。 | ||
スオウの、沈痛で、今にも泣き出しそうな表情に。 | ||
彼が感じている痛みは、おそらく少し前にセイが感じた苦痛と同じ。 | ||
無為な戦いを強いられた、その痛みだった。 | ||
![]() | ……スオウ。 | |
![]() | 喧嘩神輿が近々ある。そのことは知っているな。 | |
ああ、そのことでお前に話があるんだ。 | ![]() | |
……だが、スオウはその先を口にしない。 | ||
しかし、スオウの言いたいことは、その目を見ればセイにはわかった。 | ||
そしてセイがどういう返事をするかも、その目を見ればスオウにはわかった。 | ||
二人は何も言葉を交わさずに、ただニヤリと互いに笑いかける。 | ||
──セイとスオウ、そしてカタバ。 | ||
〈戦神としての望み〉をかけた三柱の戦いは、喧嘩神輿とうなめんとで決することとなる──。 |
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